カキツバタ(杜若)とは?

初夏の水辺を涼やかに彩るカキツバタ。古典園芸植物に分類されているカキツバタは、万葉集や伊勢物語、美術品や屏風絵のモチーフなどにも登場していることから、古来より人々の目と心を惹きつけてきたことがうかがえます。カキツバタの美しさは現代まで受け継がれ、日本らしい美しさを伝え続けてくれています。

目次

基本情報

カキツバタは、アヤメ科アヤメ属に分類される多年生植物です。原産地は日本や東南アジア。国内では北海道~九州に広く分布しています。水生植物のカキツバタは、池や湿原などに群生し、春から初夏の水辺に咲きます。花は翌日にはしぼんでしまいますが、開花時期は次々と新しい花を見ることが出来ます。

カキツバタの栽培は、平安時代以前から行われ、江戸時代にたくさんの園芸品種がつくられてきました。

カキツバタの名前

花名は、染色に利用されたことに由来します。5月の節句、カキツバタの花で書き付けた衣を身にまとって薬草を採る行事があったことから「書き付け花」「掻付花」となり、転じて「カキツバタ」と呼ばれるようになったといわれています。万葉集でカキツバタは、「垣津幡」「加古都幡多」などと記されています。

現在のカキツバタの漢字表記は「杜若」「燕子花」です。

本来、「杜若(とじゃく)」は、ツユクサ科のヤブミョウガを指すものでしたが、混同されて『カキツバタ』と読まれるようになったようです。もうひとつの「燕子花」は、カキツバタの花が燕(ツバメ)の飛ぶ姿に似ていることからついたとされています。

カキツバタの英名は、ジャパニーズ・アイリス。花がウサギの耳に似ていることから、ラビット・イヤー・アイリスとの別名もついています。英語圏では、アヤメ科の花は『アイリス』と総称で呼ばれています。

カキツバタとアヤメとの違い

「いずれアヤメかカキツバタ」という言葉があります。どちらも美しい花を咲かせることから、甲乙付けがたいという意味で使われます。そして、カキツバタもアヤメもよく似ているため、見分けがつかない、選択に迷うといった意味でも用いられる言葉です。

アヤメ科の花は、確かにどれもよく似ています。花だけでなく、開花時期や花色、花の特徴も同様で、ぱっと見ただけでどの花かは判別しづらいほどです。

アヤメ科に分類される「カキツバタ」「アヤメ」「ハナショウブ」、ハナショウブと混同されやすい「ショウブ」を並べて比べてみましょう。

 カキツバタアヤメハナショウブショウブ
科/属アヤメ科アヤメ属サトイモ科
開花時期5月中旬5月中旬~下旬6月~7月中旬5~7月中旬
花色青紫・紫・白紫・白紫・青・白・ピンク・黄黄緑の楕円形
生育環境浅瀬の水辺草地・畑など湿地・乾燥地沼・池などの水辺
花の特徴花びらの付け根が白い花びらの根元に網目状の模様が入る花びらの付け根が黄色く色づく花びらがなく、花穂のみで咲く
葉の特徴やや幅広・葉脈が目立たない・やわらかい細い・葉脈が目立たない・硬い葉脈が表に1本、裏に2本入る・幅は品種で異なる強いすっきりとした香りを持つ・葉につやがある
草丈50~80cm30~60cm80~100cm70~120cm

カキツバタがアヤメと大きく異なるのは、生育環境です。カキツバタは水生で、常に水のあるところで育ちますが、アヤメは陸生です。ハナショウブはちょうどその中間、半乾湿地で育つ特徴があります。

余談ですが、ハナショウブとショウブは、植物学上では異なった科に分類されます。端午の節句に登場するのは、アヤメ科のハナショウブではなく、サトイモ科のショウブです。

咲く花や葉でも、それぞれに特徴が分かれます。並んでいれば見分けがつきそうですが、やはり単体では区別がつきにくい印象です。

見た目だけでなく、名前もややこしいのは昔からのことだったようです。

古来、アヤメ=サトイモ科のショウブを指した言葉でした。菖蒲と書いてアヤメと読ませていたのです。現在、ハナショウブやカキツバタも『アヤメ』と呼ぶことが一般的になっているため、わかりにくいのも道理といえるかもしれません。

カキツバタの花言葉

『幸福が来る』

万葉集に載せられている和歌に由来した花言葉です。

「住吉の 浅沢小野の かきつはた 衣に摺りつけ 着む日知らずも」

(住吉の浅沢小野の杜若を、衣に摺けて着る日はいつになるのでしょう)

想い人を待ちこがれる気持ちを表現した歌にちなんで、この花言葉がついたといわれています。

『幸せはあなたのもの』『贈り物』

カキツバタは漢字で、「燕子花」と書かれます。ツバメは、縁起が良い鳥、幸福を運んでくれる鳥であることからつけられた言葉だということです。

『高貴』

その昔、紫色は高貴な人が身に着ける色だったことに由来します。花色に紫を含むカキツバタにも、「高貴」という花言葉がつけられました。

『思慕』

諸説あるようですが、カキツバタの花姿から連想された言葉のようです。水辺に咲くカキツバタの花が、好きな人を想いながらたたずむ可憐な女性に見立てられてついた花言葉だといわれています。

まとめ

カキツバタは、スイレン鉢での生育にも適している花です。水辺の環境を整える必要があるため、やや玄人向きではありますが、ハスやスイレンにも負けない存在感のビオトープをつくれる魅力があります。

群生する自然のカキツバタは、なかなか見られない風景になりつつあります。水辺に咲く花を見る機会があったら、ぜひじっくりと眺めてみてください。

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