日本になじみ深い植物には、縁起のいい名前が多いものです。春の花、イチハツもそのひとつ。どことなく郷愁を誘う佇まいを持つ、イチハツの花言葉のご紹介です。
イチハツの基本情報
イチハツは、アヤメ科アヤメ属に分類される多年草。原産地は中国です。日当たりのいい牧草地や土手などに自生し、青紫色の艶やかな花姿をしているのが特徴です。
開花時期は4~5月頃。すっと伸びた長い茎の先に、10cm前後の花を咲かせます。内側に3枚、外側に3枚の花びらを持ち、外側の花びらはニワトリのトサカの形のように波打って開きます。
色は青紫系がよく知られていますが、白い花(シロバナイチハツ)を咲かせる種類もあります。
名前の由来
アヤメの仲間の中で、開花が一番乗りに早いことから「イチハツ(一初)」と和名がつけられました。古来より、イチハツは日本の春の風景を彩ってきたといわれています。別名では「トビオグサ(鳶尾草)」、花の特徴がトンビに似ていることに由来した名前です。
中国から伝わり、古くから日本で栽培されていたイチハツは、茅葺き屋根の上に植えられる風習がありました。根が強く張るという性質を活かし、イチハツは茅のつなぎ目を補強する役割を果たしたといいます。また、諸説ありますが、イチハツには魔除けの効果があると信じられており、火事や大風を避ける目的もあったと伝えられています。
これらの風習にちなんで、イチハツの英名は“ルーフアイリス(Roof iris=屋根のアヤメの意)」”。学名“アイリス・テクトルム(Iris tectorum) ”も同じ意味を持っています。
イチハツの花言葉
「使者」
ギリシャ神話に登場する、ゼウスの侍女・イリスの逸話に由来した花言葉です。
神々の王・ゼウスは生来の浮気性で、恋のエピソードがあとを絶ちませんでした。ゼウスの度重なる求愛に困った侍女イリスは、ゼウスの妻であるヘラに、自分をどこか遠くへやってほしいと申し出ます。イリスを可愛がっていたヘラは願いを聞き入れます。イリスを、虹を渡って神々の使いの役割を果たす女神へと変えてあげたのでした。
ヘラは、イリスに首飾りをかけ、神の酒をイリスにふりかけて変身させたといいます。こぼれたお酒のしずくが地上に落ち、アイリスの花に変わったといわれています。
“アイリス”は、ギリシャ語で“虹”を意味する言葉。虹のように美しい色合いで花を咲かせることに由来しているそうです。
「火の用心」
古来、イチハツが茅葺き屋根に植えられていた風習に由来した花言葉だといわれています。
イチハツには、他に「知恵」 「付き合い上手」という花言葉があるようですが、はっきりした由来がわからないようでした。
英語の花言葉
海外では、イチハツ単体ではなく、ひとくくりにアヤメ(アイリス)として花言葉がつけられています。
花言葉は「message(伝言・メッセージ)」「hope(希望)」「faith(信頼)」「friendship(友情)」「wisdom(知恵、賢さ)」です。
アヤメ科の花言葉
ジャーマンアイリス
花言葉:「燃える思い」「情熱」
開花時期:4~5月頃
カラーバリエーション:赤・ピンク・オレンジ・青、紫・白・黄
アヤメ科の中では最も華やかな品種です。虹のように多彩な色をつけるため、レインボーフラワーとも呼ばれています。花びらのつけ根付近に、ブラシ状の毛が密生しているのが特徴です。
カキツバタ(杜若)
花言葉:「幸せは必ずくる」
開花時期:5~6月頃
カラーバリエーション:青紫・紫・白
水辺を彩る花のひとつ、カキツバタ。水中や湿地帯で育つ性質があります。藍に近い、青い色の花がよく知られています。花びらの中央には、白やクリーム色の斑が入ります。
ハナショウブ(花菖蒲)
花言葉:「うれしい知らせ」「優しい心」「優雅」
開花時期:6月頃
カラーバリエーション:白・ピンク・紫・青・黄
梅雨の時期に開花するハナショウブ。花色の変化に富み、いずれもしっとりと落ち着いた風情で咲くのが魅力です。名前は似ていますが、端午の節句に用いられるショウブとは別の植物です。
イチハツとアヤメ
アヤメ科の花は、どれもよく似ており、見分けがつきにくいものも多くあります。
イチハツとアヤメも同様です。開花はイチハツが4月頃、追いかけるようにアヤメは5月頃から咲き始めます。重なって咲く時期もあるため、混同されやすいのかもしれません。
双方の見分け方は、花と葉の特徴です。イチハツの花びらには、トサカ状の突起がありますが、アヤメにはありません。花びらの付け根が白っぽいのはイチハツ、黄色く染まるのがアヤメです。また、イチハツの葉は太く、葉脈に沿って白い色が混じりますが、アヤメの葉には入りません。
それぞれに特徴はあるものの、和を感じさせる風情と、凛とした印象で目を惹く点は共通しています。
まとめ
アヤメの仲間・イチハツは、爽やかな季節に咲き始める春の花のひとつです。初夏に出回る花はたくさんありますが、イチハツの持つ色合いと花姿は、なぜか日本らしさを感じさせ、心を和ませてくれる気がするのが不思議です。1輪挿しにも映えますが、群生する姿も見応えがありそうです。