暑さがやわらいだ残暑、お彼岸の頃に開花するヒガンバナ。鮮やかな花火のように花びらを開くヒガンバナは、夏の終わりが来たことを知らせてくれる花です。ヒガンバナにはなぜか、生死にまつわるイメージが色濃くついています。昔から伝わる数々の名前や花言葉から読み解いてみましょう。
ヒガンバナ(彼岸花)の基本情報
ヒガンバナは、ヒガンバナ科ヒガンバナ(リコリス)属に分類される球根植物です。中国や韓国原産で、現在は日本を始め、世界各地で自生しています。
開花時期は9月中旬以降。品種改良によって7月に咲き始めるものもあります。
ちなみに、秋のお彼岸は、秋分の日前後7日間のことを指します。秋分の日は、毎年9月22~23日頃の1日と定められています。
ヒガンバナの花の特徴
花先行、葉は後から
ヒガンバナの花は思い描けても、葉は知らないという方も多いのではないでしょうか。ヒガンバナは、秋雨の恵みで芽吹き、一気に茎を伸ばして花を咲かせます。花が咲いているあいだは、葉が出てきません。葉の印象が薄いのは、鮮やかな赤色にインパクトがあるせいともいえますが、元々花と葉を一緒に見ることがない植物なのです。開花し、1週間程で花と茎が枯れ落ちた後、ようやく球根から葉を出します。
ヒガンバナの葉は、冬場は葉を茂らせたまま季節を越し、春先に光合成をして球根に栄養を貯蓄します。夏には葉を落として体力を温存し、次の秋を待つサイクルで生息しています。
毒性の強さ
ヒガンバナは、強い毒を持った植物です。全草に含まれるアルカロイドは、摂取すると激しい腹痛や呼吸不全、中枢神経の麻痺など、深刻な中毒症状を引き起こす成分です。
墓地にヒガンバナが多いのは、この毒性に関係しています。かつて土葬の風習が一般的だった頃、ご遺体をモグラやネズミ、虫から守るための忌避剤として大量に植えられていました。土葬がなくなった以後も、墓地には名残としてヒガンバナが咲きつづけ、そのまま花のイメージに死生観が結びついたようです。
ヒガンバナの花言葉
全般に共通する花言葉は「悲しき思い出」「あきらめ」「独立」です。
これらは、ヒガンバナが墓地でよく見られることに由来しています。亡くなった方を偲び、思う気持ちから喚起された花言葉だといわれています。
「独立」はさらに派生した花言葉。悲しみから立ち直り、前向きに生きる決意を表しているそうです。また、1本の茎に大きく花を1輪つける花姿をイメージした言葉だという説もあります。
一転、明るい花言葉もあります。
燃えるような赤い色で咲くことに由来した「情熱」 「想うはあなた一人」という言葉です。
隣国の韓国では、ヒガンバナ=サンチョ(相思華)と呼ばれ、両想いのシンボルとして扱われています。
ところ変われば意味合いも大きく変わるものですね。
色別の花言葉
最も知られているのは赤い色ですが、ヒガンバナには他にもカラーバリエーションがあります。
色別に花言葉もつけられています。共通するものもありますが、色のイメージによって花言葉にも違いが現れています。
- 白 …「また会う日を楽しみに」「想うはあなた一人」
- 黄色 …「追想」「深い思いやり」「陽気」「元気な心」
異名の多いヒガンバナ
ヒガンバナは、マンジュシャゲ(曼殊沙華)という名前でも知られていますが、その他にもたくさんの別名を持っており、方言での呼び名も含めると1,000以上もあるといわれます。いずれも、ヒガンバナの持つ特徴に由来した名前ばかりです。
彼岸、死のイメージから
- 幽霊花(ゆうれいばな)
- 死人花(しびとばな)
- 地獄花(じごくばな)
毒を持つ性質に由来
- 毒花(どくばな)
- 痺れ花(しびればな)
花の特徴から連想
- 雷花(かみなりばな)
- 天蓋花(てんがいばな)
- 狐花(きつねばな)
- 剃刀花(かみそりばな)
花と葉が同時に出ない性質に由来
- 葉見ず花見ず(はみずはなみず)
なぜこれほどまでに多くの名前がつけられているのでしょうか。命名からして、古くから伝わったままの名前が多いように見受けられます。
現世離れした花の美しさや、毒性の強さ、葉の出ない不思議。
つけられた異名の数は、人々にとってヒガンバナが畏れつつも惹かれてしまう、とても印象的な花であったという裏付けなのかもしれません。
ちなみに、マンジュシャゲ(曼殊沙華)は、吉兆を表す名前です。マンジュシャゲ(manjusaka=サンスクリット語)は、“天界に咲く花”という意味の言葉。仏教の経典では「天から赤い花が降るとおめでたいことが起こる」と伝えられており、マンジュシャゲ(曼殊沙華)は縁起物として敬われています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ヒガンバナに反映される日本固有のイメージは、時代に合わせて少しずつ変わっていくのかもしれません。
実は、ヒガンバナの仲間は海外で大人気。欧米では、原種を元に華やかな園芸種も多数つくられているのです。切り花で知られるダイヤモンドリリー(ネリネ)も、ヒガンバナ科の花です。ピンクやパープル、オレンジなど、明るい色もたくさんつくられています。